いい匂いする

どようび、はつか
携帯の時計は10：24
君は大きな紙袋をもって、お部屋に入ってくる
PCのキーボードを買ってきてくれた
わたしはまだいらないって言ったのに
でも、新しいのはやっぱり打ちやすい
MとNの位置が前のと違くてすぐ打ち間違えるけど
爪が長いってのも少しは関係してると思う
たちゅくん、ありがとちゃん


君は少し疲れているみたい
いつもと違うから
それでもわたしはいつものように君に甘え
いつものように君にキスする


耳を噛む
鼻先を噛む
君はわたしのをいつもそうする
痛いから、わたしも君のを噛むことにしたよ
カプカプカプ


昼間だっていうのに薄暗い、わたしのお部屋
君のお顔、見えません
見えません
もっと近くに、わたしのほう


独りはいやです
寂しいから、寂しいから
頭を冷やそう、そう思いました
一人でお部屋を出ました
いきなり、いきなり


目をつむっても入ってくる光
それは、おひさま
どうしてこんなに美しいのでしょう


沸き上がった欲望は消しました
君のもとへ、帰ります


小さな頃を思い出しました
車の中や、お庭の隅っこに隠れたわたしを
はやく見つけて、お父さん
はやく迎えにきて、お母さん


わたしは、貴女にとても似ています


君の言うように
わたしが気難しい人間だということは
わたし自身、薄々気づいています
だけど、どうにもできません
君が拒んだら、それでお終いです

風、いい匂いする